スプリンクラーという名前を聞いたことがない、という人は少ないのではないでしょうか。スプリンクラーとは病院やホテルなどの天井に付いている、火災の際に放水部分(スプリンクラーヘッドと言います)から水が放出されて火を消す装置の事です。
スプリンクラー設備は、水源、加圧送水装置(スプリンクラーポンプ)、起動装置(圧力タンク・手動起動装置)、流水検知装置(アラーム弁)、一斉解放弁、配管、スプリンクラーヘッド、弁類及び非常電源などから構成されています。
天井にあるスプリンクラーヘッドには水が充水されていて、この中で水にフタがしてあり、火災の熱を受けるとそのフタを抑えている感熱合金などが解けてフタが取れ、中の水が反射板に打ち付けられて拡散放出し、広範囲に放水します。スプリンクラーの役割は、消火というより燃焼を抑制するものです。
スプリンクラーヘッドには、閉鎖型スプリンクラーヘッド、開放型スプリンクラーヘッド、放水型スプリンクラーヘッドがあります。また、閉鎖型スプリンクラーヘッドにも湿式スプリンクラー、乾式スプリンクラー、予作動式スプリンクラーがあります。それぞれについて説明していきましょう。
閉鎖型スプリンクラーヘッドは、普段は水の出口が閉鎖されていて、一定の温度に達した時に感熱部が作動し、出口が解放する構造のものです。感熱部には熱によって溶解する「ヒュージブルリンク」を使ったものと、ガラス内にアルコール系の液体を入れた「グラスバルブ」を用いたものがあり、グラスバルブは熱によって内部の液体が急激に膨張する事でガラスが破裂する構造になっています。閉鎖型スプリンクラーヘッドは、天井が高過ぎると熱の感知が遅くなる危険があるため、天井の高さが10m以下(物販用途などでは6m以下)のところにしか設置出来ません。
湿式スプリンクラーでは常にポンプや流水検知装置、配管の中に水が満たされ、加圧してあるのでスプリンクラーヘッドが作動すると直ちに放水し、配管内の圧力の低下を検知してポンプが起動されます。最も多く用いられているスプリンクラーで、凍結の恐れのない場所で使用されます。ただ、湿式スプリンクラーにはスプリンクラーヘッドが火災以外の理由で破損した場合も放水してしまうというデメリットがあります。
乾式スプリンクラーは、湿式スプリンクラーとは違ってポンプから流水検知装置までしか充水・加圧してありません。配管の中には代わりに圧縮空気が充満しており、スプリンクラーヘッドが作動して配管内の圧力が低下すると、流水検知装置が圧力差で解放し、水が配管内に流れ出て放水する仕組みになっています。配管内に充水しないため凍結の恐れがある場所で用いられますが、この方式も湿式スプリンクラーと同様にスプリンクラーヘッドが火災以外の理由で破損してしまった場合にも放水してしまいます。
予作動式スプリンクラーは、乾式スプリンクラーと同様に配管内には圧縮空気が充満していますが、火災感知器との連動で初めて放水する仕組みになっています。スプリンクラーヘッドによる感知だけでは放水しないので、火災以外の原因でヘッドが破損しても放水しません。そのため、サーバー室や電子機器室などの水による損害を特に避けたい部分に設置されることが多いスプリンクラーです。
開放型スプリンクラーヘッドを用いたものは、劇場の舞台部や化学工場、倉庫といった急速に火災が拡大する危険がある箇所に用いられています。防護する部分に煙式や炎式の火災感知器を設けるか、放水区域ごとに手動起動装置が設けられています。ポンプから一斉開放弁までは充水・加圧してあり、一斉解放弁から解放型スプリンクラーヘッドまでは空になっています。一斉開放弁とは、消火に必要な区域のすべてのヘッドに送水する制御弁のことです。
放水型スプリンクラーヘッドを用いたタイプのものは、主にドームなどの大空間や10mを超える高天井部分に設置されます。放水型スプリンクラーヘッドには固定式と可動式があり、固定式のものは壁や天井に固定されたスプリンクラーヘッドから放水します。また、可動式のものは放水銃と呼ばれるスプリンクラーヘッドから放水するタイプのものになり、毎分およそ4,000ℓの水を圧縮空気と共に放水するので、射程は100mほどにもなります。そのため、東京ドームなどの大空間施設に設置されています。
スプリンクラーを設置する工事の流れについてご説明します。
スプリンクラー設備は部屋の広さや間取りなどによって、設置しなくてはならない個数が定められています。設置位置や設置個数を算定するため、まずは採寸・設計が必要になります。
スプリンクラーヘッドの取り付け位置や個数が決まったら、所轄消防署にスプリンクラー設置工事着工届を提出します。スプリンクラー設備は水を使用するので、配管の系統図も作成し、提出しなくてはいけません。
天井裏に配管を通していく作業になります。スプリンクラーを設置する箇所に合わせて施工しなくてはいけません。
配管工事が終わったら、その配管とスプリンクラー設備、ポンプユニットを接続します。接続が終わったら、空気による圧力テストや水漏れが発生しないか、などのテストを行います。
図面や概要表、配管統計図などとスプリンクラー設備設置届をを所轄消防署に提出します。その後、消防署の検査が終了すれば、設置工事は完了となります。